研究概要

 

健康維持 < 機能性食品開発 >

 

高度不飽和脂肪酸生産

 

油脂はエネルギー源としてだけでなく様々な生理学的機能を持った物質であり、特に高度不飽和脂肪酸には多彩な生理機能が報告されています。

高度不飽和脂肪酸とは炭素鎖長が18以上で、二重結合が2つ以上ある脂肪酸と定義されます。

アラキドン酸、エイコサペンタエン酸(EPA:プロスタグランジンの前駆体)などの高度不飽和脂肪酸を、医薬品や機能性食品として利用する動きが最近活発化していますが、これまでその豊富な供給源は知られていませんでした。

 

糸状菌Mortierella alpina 1S-4

 

微生物界にその給源を求め探索した結果、Mortierella属カビ(M. alpina 1S-4)が、アラキドン酸を著量生産することを見出しました。


M. alpina 1S-4は接合菌に分類される一般的な土壌微生物です。

グルコースなどの炭素源を利用して、アラキドン酸を豊富に含むトリアシルグリセロールを菌体内のリピッドボディに蓄積することができます。


光学顕微鏡により、発達したリピッドボディが容易に観察されます(赤矢印)。


現在、本菌を用いたアラキドン酸の工業生産が行われています。


 

発酵油脂の用途

 

発酵生産されたアラキドン酸高含有油脂は、乳児用粉ミルクの油脂成分として利用されています。


 

 

多様な高度不飽和脂肪酸(PUFA)

 

野生株M. alpina 1S-4は右の図の黒矢印により示した経路でアラキドン酸(AA)をつくることができます。


これまでに古典的な化学的変異処理により脂肪酸組成がダイナミックに変化した変異株を取得し、アラキドン酸だけでなく様々な高度不飽和脂肪酸を作ることに成功しました。


例えば、Δ5不飽和化酵素活性が欠損した変異株ではアラキドン酸の代わりにジホモγリノレン酸(DGLA)が蓄積されます。


このように、様々な変異株を用いてここに示す脂肪酸をある程度選択的に生産することが可能となります。


現在では、高度不飽和脂肪酸生合成に関与する酵素および遺伝子レベルでの解析を進めるとともに、遺伝子組み換え法を活用した分子育種により、脂肪酸の選択的生産技術がより洗練されています。

特に、近年その機能が注目されているオメガ3脂肪酸(n-3脂肪酸)の生産研究に注力しています。


 

新規オメガ3脂肪酸素材の開発

 

食生活の変化によって、オメガ3脂肪酸を含む食材の利用が減少し、オメガ6脂肪酸を多く含む食事を好むようになっています。


この脂肪酸バランスの変化が、生活習慣病増加の原因のひとつと考えられています。


オメガ3脂肪酸には、生活習慣病予防に加えて、脳機能の発達やアレルギー抑制など多彩な効果が報告されており、その摂取が国からも奨励されています。


現状では、魚油からの供給に依存しており、我々は本菌の育種によりエイコサペンタエン酸(EPA)などのオメガ3脂肪酸(n-3脂肪酸)の新たな供給源の開発に取り組んでいます。



微生物や植物の脂質蓄積、変換能力を活用して得られるオメガ3脂肪酸を脂質メタボロミクス解析や脂質動態解析(ともに共同研究先にて)に供することで、新たなオメガ3脂肪酸食品素材の創出が図られるとともに、その、科学的な栄養評価が達成されることが期待されます。


これらの成果は、我々の健康維持に貢献するだけなく、多様な食品、農林水産業への波及効果が期待されます。

ページトップへの移動ボタン


研究概要の目次へ戻る