研究の内容


 本プロジェクトでは、酵素(生体触媒)反応のもつ優れた特長のひとつである様々な特異性・選択性を活かした新しい有用物質生産プロセスの開発を行っています。目的とする反応を触媒する酵素を広く微生物界に探索するとともに、既存の酵素を詳細に解析し、目的とする各反応に合致した新しい機能を付与すべく酵素機能の改変を行っています。また、探索した酵素や新しく創製された酵素を用いた反応系を構築し、合理的かつ精密に制御可能な新しい反応システムの構築を試みています。

 まず、酵素の有する高度な立体選択性を利用したキラルシントン(光学活性合成素子)の生産プロセスの開発について紹介します。医薬等の有用生理活性物質は、ほとんどの場合不斉炭素原子を有しており鏡像異性体が存在しています。しかし、これらのうち目的とする生理活性を有するのはいずれか一方の鏡像異性体であり、逆の鏡像異性体は阻害的な作用を示したり、異なる生理活性を示すことがあります。したがって、このような場合、物質的な純度だけでなく光学的にも高純度の化合物が必要となります。(R)-および(S)-4-クロロ-3-ヒドロキシ酪酸エチル(CHBE)は、L-カルニチンや1,4-ジヒドロピリジン系β-ブロッカーなどに導くことのできる有用キラルシントンのひとつで、近年その需要が増加してきました。そこで、微生物酵素の高度な立体選択性を利用した4-クロロアセト酢酸エチルのカルボニル基不斉還元反応による(R)-および(S)-CHBE生産プロセスの開発を行いました。広く探索を行った結果、Sporobolomyces salmonicolorの生産するアルデヒド還元酵素およびCandida属酵母の生産するカルボニル還元酵素がそれぞれ(R)-および(S)-CHBEを選択的に生産できることを見出しました。これらの酵素を触媒として用いることにより、(R)-および(S)-CHBEを高効率・高選択的に生産できる実用的プロセスを開発しました。


Sporobolomyces salmonicolorの生産するアルデヒド還元酵素


実用生産レベルでの酵素反応


 この他にも、ニトリル変換酵素による光学活性アミドや光学活性カルボン酸の選択的生産、脱炭酸酵素によるマロン酸誘導体の選択的生産、イソプレン単位の鎖延長反応を触媒するプレニルトランスフェラーゼによる各種生理活性物質の生産、糖質転移酵素による有用複合糖質・オリゴ糖の生産などを中心とする酵素反応による有用化合物の生産プロセスの開発を進めています。